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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(あ)1812号 判決 1960年3月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意について、

所論は事実誤認の主張を出でないものであって適法な上告理由に当らない。

弁護人高浜淳の上告趣意第一点について、

所論は憲法三七条一項違反をいうけれども、同条項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所による裁判を意味するものであって、個々の事件につきその内容実質が具体的に公正妥当な裁判を指すのではないことは既に当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第四八号、同二三年五月二六日大法廷判決、集二巻五号五一一頁)とするところである。従って原審の証拠の採否が所論のように被告人の側からみて不利であったからとて原判決は前記憲法の規定に違反すると主張する所論は採るを得ない。

同第二点について、

所論は原判決には経験則違背、審理不尽、理由不備の違法があると主張するものであって適法な上告理由に当らない。

同第三点について、

所論は原審の証拠の取捨判断を非難し事実誤認を主張するものであって、適法な上告理由に当らない。

同第四点について、

所論は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当らない。

弁護人毛利与一の上告趣意第一、二点について、

所論はいずれも判例違反をいうが、原判決が如何なる判例に違反するか具体的に明示していないのであるから不適法であり、所論の実質は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

同第三点について、

所論は判例違反をいうが、原判決が如何なる判例に違反するか具体的に明示していないから不適法であり、所論の実質は単なる訴訟法違反の主張であって(原審はその第二回公判期日を昭和三四年五月二一日午前一〇時と指定したが双方の意見を徴した上、右五月二一日の期日を五月二八日に変更し〔記録三二二丁〕その変更決定は弁護人等にも適式に送達されていること記録上明らかである)適法な上告理由に当らない。

弁護人横山勝彦の上告趣意第一点について、

所論は違憲をいうが、実質は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

同第二点について、

所論は判例違反を主張するけれども、原判決は挙示の各判例の趣旨に何等相反する判断を示しているものとは認められない。所論の実質は単なる法令違反の主張に帰するものであって適法な上告理由に当らない。なお所論は要するに刑法二二二条の脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによって成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件二枚の葉書の各文面は、これを如何に解釈しても出火見舞にすぎず、一般人が右葉書を受取っても放火される危険があると畏怖の念を生ずることはないであろうから、仮に右葉書が被告人によって差出されたものであるとしても被告人に脅迫罪の成立はない旨主張するけれども、本件におけるが如く、二つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかと畏怖するのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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